The Shop  – 現代美術の着心地 –

会期
2005年8月1日‐8月12日

会場
旧メンズウエア銀座(銀座、東京)

キュレーター
クリスティーヌ・ヴァンドルディ・オザノ

アーティスト
江場 左知子、笛田 亜希、藤田 勇哉、菊池 省吾、北村 直子、松澤 陽太、諸熊 仁志、村林 基、武藤 亜希子、滑川 由夏、野口 一将、五月女 哲平、植田 圭、保井 智貴


 2005年の春、我家に夕食を食べに来た息子の友人の作家との出会いから、この活動が始まりました。私は子供の頃から美術が好きでしたが、その当時は若手作家の展覧会を余り見た事がありませんでした。何処で展示しているのかと聞いたところ、財政的に余裕の無い若手作家にとって東京の都心での展示は難しいため、都心を外れた所で展示しているとの話でした。バブル経済の崩壊で大きな打撃を被った都心の画廊の多くは貸画廊をしており、若い人達にとって都心での展示は高嶺の花だったようです。私はその時に、都心で展示場所を探してあげられるかも知れないと思いました。

 銀座の老舗コージ・アトリエの渡辺弘二さんは美術に理解のある方で、所有するビルの1・2階でテーラーショップをしていたテナントが入れ替わるので、その間を展覧会に(8月1日から12日迄)提供して下さる、という話が出ました。作家には展覧会を開催できる場所を見つけたので友達を集めて展覧会をしましょうと伝えました。彼女は13名の様々な分野(油絵、ビデオ、インスタレーション、彫刻等)の作家友達を募って大急ぎで展覧会の準備を始めました。

 アートが好きで見るだけ、何の経験も無い私は暗中模索する中、当時東京に住んでいた現代アートに詳しいフランス人の友達クリスティーヌ・ヴァンドルディ・オザノさんに一緒に手伝って貰う事にしました。二人で話している間に、まずグループに名前をつけようと…と言う話になりました。集まった作家達は大学を卒業して、従来の画壇の枠に収まらない人達で創作に燃えていました。私は全くの素人で、その辺の事情は分からないので、何しろグループの人達には何の拘束もなく自由に作品を作ってもらい、私は彼らに展示のチャンスをあげたいと思いました。フランス語で「グループ(団)の中」を表現すると語順はdans 団ですが、グループであってもグループとしての括りが無い作家の自由な集まりなので、逆にして団dans→団DANSにしました。何だかパズルのような名前になりました。

 作家達は展覧会を催すためには、どんな準備をしたら良いか、誰が何を準備するか等を我家でミーティングを開いて話し合いました。案内状は作家がデザインしてネット印刷で安く上げました。私は案内状を多くの友人に送付しました。

 作品を販売する事は大変な事ですが、値段をつけて売るだけでは余り面白くありません。若手作家の展覧会なので少し遊びがあっても楽しいのではないかと、サイレントオークションで作品を売る事にしました。一面が透明な木箱の中に壁を作って作家の人数に分け、そこに作家名と作品写真を貼った素晴らしいオークションボックスを作家の一人が作りました。作家本人が決めた最低落札価格と作品写真の載ったリストをラミネート加工で数枚作りました。作品がほしい方にはリストを見て、入札票に名前と連絡先、欲しい作品名と最低値より高い値段、入札時間を書き入れた票をオークションボックスに入れて頂くのです。同じ値段で落札者が二人以上出たら、時間の早い方が落札できます。これは、なかなか面白いオークションで、箱の透明な部分からは入札があったか見えるのでスリリングです。作家も自分の作品に札が入るか、ドキドキだったと思います。人気の作品にはボックスいっぱいの票が入りました。又、作家は今まで作品を売った事が無い人も多数いましたので、値段をどう付けるか皆、思案していました。

 芳名帳を作って、来場者には名前や連絡先を書いて頂きました。芳名帳とオークションの入札票は、その後の貴重な名簿の元になりました。

 当時京橋にあった平野古陶軒の主人、平野龍一さんは以前からの知合いで良いアドバイスを貰い大変助けられました。

 展覧会場はテーラーショップ当時のままにしました。引き出しにはそのまま作品を入れ、ネクタイが入っていた所にはドローイング、空いたスペースにはインスタレーション、試着室ではビデオが上映されました。二階の壁には油絵、余裕のあるスペースには大きなインスタレーション、棚には彫刻作品が並び、これは今考えても楽しい展示でした。

 階上でオートクチュールのお店をされているビルのオーナーの渡辺弘二さんも時々スタッフと下りて来て、応援してくださいました。

 この展覧会は美術の展示をギャラリーや美術館、イベントホールでするという観念を壊しました。オープニングには作家の仲間や大学の先生、友人達が大勢集まって展示を楽しんで下さり、賑やかな夕べとなりました。銀座らしく通りがかりに、ふらっと入って鑑賞される方もあり、多くの来場者がありました。

 作品が売れたら、売り上げの9割は作家に、1割は団DANSに入れて貰いました。搬出搬入作業も含めて準備は全て作家達で行いましたから、売れた作品の納品も作家自らが行うという事にしました。世間が狭くなりがちな作家には作品を買って下さった方の御宅に伺い、ご挨拶をして、作品がどんな所に設置されるのか知る事も勉強になったことでしょう。そこで新たな人間関係が出来、その後、長く団DANSの展覧会に来て、作家の成長を楽しみにして下さる方々も出て来ました。

 これが団DANSのスタートとなった一回目の展覧会です。

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